|
ハンガリーでの事務手続きが、一度で済むことは稀だ。というのも、ハンガリーでは手続きに必要な書類を一覧にして知らせるという習慣がないからだ。旧体制時代にコピーは厳禁で、コピー機がなかった時代からの悪しき習慣なのだ。だから、手続きに行く前に、必ず必要書類を確かめる。電子政府になっても、それは変わらない。インターネットのモニター画面のどこにも、必要書類の一覧は表示されていない。だから、必ず電話で確認するのだが、念には念を押して、2度電話する。しかし、ほとんどの場合、二つの回答が違っているから困る。
健康保険証の発行が必要になったので、手続きすることにした。2度電話し、異なる回答を得たが、必要書類が多い方の回答に従って出発した。車両証明更新で草臥れたので、アシスタントに代理で行ってもらい、その事務手続きの様子を後で報告してもらうことにした。とにかく、ハンガリーでは簡単な証明書発行でも、実にいろいろな書類を持参しなければならない。
2時間ほどで戻ってきたので、「うまく行ったか」と聞くと、「はい、番号札も連続的に出していたし、対応も丁寧だった。けれど、現地で書き込まなければならない申し込み書類が2枚あって、それには本人の署名が必要なので、その書類を持ってきた」という。要するに、手続きができなかったのだ。電話の問い合わせでは、そんな書類のことは誰も言わなかった。「でも、次回は順番待ちなしで扱ってくれるというから、すぐに戻って手続きする」という。電子政府なら必要な書類をダウンロードできるサービスがあって当然だし、代理で行くと電話で問い合わせているのに、そういう書類があることをどうして教えないのだろう。本当に気が利かない。それにしても、高が1枚の保険証の発行に、会社の登記証、本人のパスポート、住居証明、手続き委任状、署名証明のほかに、さらに現地で2枚の書類に記載・署名する必要がある。いかにも時代がかっている。
私が住む居住区に地下排水管が敷設された2年前のことだ。10年以上前に一度調査に来たことがあるが、その後何の音沙汰もなかった。5年ほど前に、近所の通りで敷設工事が始まったが、わが家の通りが何時になるのか皆目分からなかった。ところが、2年前に突然、工事が始まった。誰かが郵便受けに、白い封筒に郵便振り込み用紙を投げ込んでいった。何時までどれだけの金額を振り込めば良いのか、何の情報もなかった。もちろん、工事が何時から何時までで、どのような手順で必要な書類を用意する必要があるのかなどの情報はゼロである。
工事が始まって1ヶ月ほどして、排水管敷設・管理公営会社(ブダペスト市保有)から手紙が届き、支払い証明を送るようにという。物知りの隣家の叔父さんに総額を聞いて、振り込み証のコピーを送った。1ヶ月して返事がきて、振り込み証のコピーではなく、2区の公証所で役所の支払証明をとり、それを送るようにという。面倒なことだが、それを取って送った。次に、別の手紙が届き、所有物件の公証書類を送れという。少し古いものだが、手許にあった証明書を送ったところ、1ヶ月経て、彼らのデータと一致しないところがあるから、最新の証明書を送れという。仕方がないので、まったく同じ内容の新しい証明書を取得して、これを送った。
工事が始まると、近所の土建屋がやってきて、家屋から道路の排水管までの個人所有地内の配管工事を請け負うという。それがなければ排水ができないから、これは頼むしかない。彼の土建屋はルーマニア人やロマ人を使って、自分は監督するだけ。これで結構なお金を稼ぐ。ともかく、道路の配管への接続は簡単にできた。問題はいつから使って良いかだが、そのような情報は敷設・管理会社からも2区の役所からも来ない。だから、もう接続できた段階から、使うことにした。
敷設工事が終わったところで、再び敷設・管理会社から手紙が来た。「排水管使用料は水道水の使用料に比例するが、庭の散水料測定器具を取り付けるか、あるいは散水用の簡易割引を受けるか」という。「簡易割引を受ける」という返答にたいして、1年後に「それを承認する」という回答が届いた。工事が完成しておよそ1年後に、排水管使用料の徴収が始まった。
何とも、訳の分からない工事だったが、とにかく1ヶ月単位で来る手紙に答えることで、工事が完成し、排水管が使えるようになった。これはいったい何だったのだろう。これが典型的なハンガリー式の仕事か。ハンガリーではいつからこんな仕事のスタイルになったのだろうか。
|
「マーチャーシュ教会とヒルトンホテル夜景」 |
|
Y. 民営化された電力会社の事例 |
 |
| |
|
排水管敷設・管理会社は公営会社だから仕方がないと思われるかもしれない。しかし、民営化された会社もあまり変わらない。ELMÜという電力会社は民営化された株式会社だが、その仕事振りは官庁そのものだ。
昨年7月に、この会社から停電の事前通知が来た。2週間後の午前9時から12時まで停電とある。さすがに民営化された会社は違うと感心した。ところが、当日、午前中に事務所に出向いたが、停電になっていない。お昼頃には社員が出勤してきて、午後の仕事に備えようとした途端、12時から停電になってしまった。工事が3時間遅れで始まったようだ。もちろん、何の断りも、事後の釈明もなかった。事前通知は無駄だったどころか、そのために丸一日仕事ができなくなった。
日本でこんなことが起こったら、どうなるだろう。少なくともこの会社はそれなりの批判を浴びるし、損害賠償を請求されても仕方がない。しかし、ハンガリーではこんな「小さなこと」は何でもないのだ。市場経済いまだ遙か、である。
|
|
|